日常生活のなかの神々
イスラム教徒が大多数を占めるインドネシアにあって、バリ島では土着の神々への信仰や祖先崇拝、インドから伝来したヒンドゥー教などが結びつき、特異な「バリ・ヒンドゥー」の世界が生まれる。さらに19世紀にはオランダによる植民地支配を受け、西洋文化の影響を受けた新たなバリ絵画が形成される。その契機となったのが、ドイツ人画家・音楽家のヴァルター・シュピース(1895~1942)らとの交流だった。彼らとバリ島の芸術家イ・グスティ・ニョマン・レンパッド(1862~1942)らは1936年に「ピタ・マハ」という画家協会をウブドで結成。観光客向けに消費されたバリ絵画の芸術性を高めようと、定期的に集会が催され、近隣の村からは多くの画家、彫刻家たちが参加した。以降、ウブドを中心に、バトゥアン、サヌールなどでも独自の様式が展開。さらに近年では、イ・デワ・プトゥ・モコ(1934~2010)のように、より個人的な視点をもち、バリの情景をユーモラスに描き出す画家たちも注目を集めている。
ニョマン・メジャ 《ラーマーヤナ》 1984 アクリル・布
イ・デワ・プトゥ・モコ 《招魂式(生後3ヵ月の儀式)》 1992 アクリル・画布