西洋人パトロン向けの細密画
インドの画家が伝統的な細密画と西洋絵画の遠近法や陰影法の技法を融合させて描いた絵画のこと。18世紀半ばのムガール諸勢力の衰退にともない、藩王国に仕えていた細密画家たちは、イギリス東インド会社(カンパニー)の拠点であるカルカッタ(現・コルカタ)、パトナー、ラクナウなどに移住し、その関係者を新たなパトロンとして絵画の注文制作を始めた。顧客の好みに合わせてテーマは選ばれ、藩王の肖像画や史跡名勝の風景から、植民地インドに関する視覚資料の需要を背景に、動植物を描いた博物誌的なもの、職業や風俗で分類した民族誌的なものまで幅広い。同時期インドに滞在した西洋画家からの影響が見られるほか、1840年代にインドに流入した写真との相互の影響関係が見られるが、その写真の普及によって急速に衰退した。インド美術史では、伝統的なパトロン制度による職人としての絵師が近代画家へと移り変わる過渡期の作品群とされる。
作者不詳(カンパニー派) 《マハーラージャー・サー・マドー・シンII世の二人の高官》 1880年頃 水彩・紙
作者不詳(パトナー派) 《宮廷の屋上でブランコを楽しむ婦人たち》 1810年頃 鉛筆、グワッシュ・紙