民主と民衆のための巨大な文化運動
軍事独裁政権下の1980年代に韓国で民主化運動の高まりとともに展開した、全アジアでも屈指の巨大な美術運動。当時の韓国現代美術で主流であった「単色絵画」に代表されるモダニズム美術を批判し、歴史の主体である民衆の生活を題材とした。さらに、展覧会場の枠を超え、路上での発表、出版、教育など広範な手段で一般の大衆が享受でき、その政治意識を高める美術を目指した。1980年の光州民主化抗争を皮切りに、1987年の6月抗争を頂点とする民主化のための政治運動の展開のなかで、オ・ユンやミン・ジョンギらによる〈現実と発言〉(1979年創立)、ホン・ソンダムら〈光州自由美術人協議会〉(1979年創立)、パク・フンスンらの〈壬戌年(イムスルニョン)〉(1982年創立)、キム・ボンジュンらによる〈トゥロン(畔)〉(1984年創立)など多数の美術グループが立ち上がり、〈光州自由美術人協議会〉による光州市民美術学校など、木版画や民俗文化を教える一般市民向けワークショップを開いた。1980年代末になると民衆美術特有の表現として仏教美術の伝統からくる「コルゲ・クリム(掛け絵)」という大画面の垂れ幕形式の絵画が数多く制作され、政治集会や路上デモなどの現場で掲示された。「民衆美術」の展覧会は当局によって作品を押収されたり、美術家が逮捕され拷問されるなどの暴力的な抑圧を被ったが、民主化や文化的な独立のための強い意志で闘いを続けた。しかし1993年に32年ぶりの文民大統領であるキム・ヨンサム政権が樹立したあと沈静化していった。
ホン・ソンダム(洪成潭) 《五月-19 行こう、道庁へ》 1988 木版・紙
キム・ボンジュン(金鳳駿) 《四月の歌》 1983 木版、水彩・紙