アジア限定・交流のための国際展
略称「福岡トリエンナーレ」またはFT。1999年に福岡アジア美術館(以下、アジ美)が開館したとき、ほぼ5年ごとに開催されていた福岡市美術館の「アジア美術展」を3年ごとのトリエンナーレ形式で発展・継承することになり、開館記念展として「第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999」(FT1)が開催された。(このFT1のみ福岡市美術館からの継続を示すために「第5回アジア美術展」と副題があったが、FT2以後はなくなる。)
FT1は、「第4回アジア美術展」よりさらに3か国・地域(台湾、ブータン、カンボジア)を増やし21か国・地域の作家を紹介(この限定はFT5まで継承された)、美術を通した市民交流をめざすアジ美の性格をうちだして、作家の招聘による「交流プログラム」を展覧会の重要なプログラムとした。博多部の中心というアジ美のロケーションを生かして、周辺部の商店街、公園、空きビルなどを使った展示・パフォーマンス・ワークショップを展開した。テーマ「コミュニケーション~希望への回路(Communication: Channels for Hope)」も、アジ美の基本理念である「交流」の一環として、人と人の対面によるものから映像やコンピュータなどを使うものまで、多様な手段でコミュニケーションを誘発する作品に焦点をあてたものだった。
2002年のFT2では、「語る手 結ぶ手Imagined Workshop」をテーマとして、FT1および国際的な現代美術展の潮流に戦略的に逆らって工芸的な手法を含む手作りや素材感を生かした作品、コラボレーションに焦点をあてた。
2005年のFT3からは、それまでの3月開会をあらためて福岡市の「アジアマンス」一環として9月からの開会となった。FT3は「多重世界Parallel Realities」をテーマとして、大衆文化の影響を受けた新世代作家が目立った。同展は英国ブラックバーンに巡回した。
開館10周年記念として2009年に開かれたFT4は、新進作家に加えて国際的に活躍する作家を選んだ。テーマ「共再生―明日をつくるために(Live or Let Live: Creators of Tomorrow)」のもと、生物の生死にかかわる重厚な作品が目立った。
2014年のFT5「未来世界のパノラマ~ほころぶ時代のなかへ(Panorama of the NewtWorld: Breaking out into the Future)」では、映像・メディアアートに重点をおき、特別部門「モンゴル画の新時代」の開催、福岡作家紹介、横浜トリエンナーレや釜山ビエンナーレとの連携、テーマソングほか新手法の広報を試みた。交流プログラムも最多の122回に及んだ。
以上の5回のFTに共通する、アジア各地で増えて行った国際展と異なる特徴としては、下記がある。
1 アジア域内21か国・地域に限定しつつ可能な限り現地調査をおこなって各国・地域から最低一人の意欲的な新進作家を国際舞台で紹介したこと。
2 「交流プログラム」による現地制作・ワークショップ・パフォーマンスなど、しばしばコラボレーションをともなう作品発表により、市民・観客との交流の場・機会を創出したこと。
3 美術館が主催・企画する展覧会であり、出品作品および現地制作作品が美術館に収蔵され、継続的に紹介されたこと。
(黒田雷児)
FT1 マイケル・リン
FT1 ナヴジョト(インド)
FT1 ワン・ジュンジエ(台湾)
FT1 ドゥリヤ・カジ、デイヴィッド・エルスワースのプロデュースによるパキスタンのトラック画家が描いたタンクローリーが街を走る
FT1 マイケル・リン(台湾)作品の上でドーンディ・カンタビライ(ラオス)の滞在制作の紙芝居をボランティアが読む
FT1 イユム(韓国)が博多どんたくに参加
FT2 タイ現代史を机に刻んだスッティー(タイ)の作品 絵を写し取ることができる
FT2 冷泉公園のハーシャ(インド)作品
FT3 観衆が操作できるシルパ・グプタ(インド)作品
FT3 タウィーサク(タイ)の滞在制作
FT4 中国作家ホアン・ヨンピン(手前)とツァイ・グオチャン(左奥)
FT4 リアン・セコン(カンボジア)作品によるパレード(川端商店街)
FT5 PHANK(シンガポール) 会期中変化する壁画
FT5 ユェン・グァンミン(台湾)
FT5 ミン・ティエン・ソン(ミャンマー)
FT5 博多駅前のチェ・ジョンファ